今回はいつかこの紙面でお伝えしなくてはならないと思いながらどうお伝えすべきか迷ってきた医学ネタを扱いますね。
…それは抗生物質(抗菌薬)のことです。
咳や鼻,発熱といった症状で受診したときに抗生物質が処方されたことのあるお子さんは多いと思います。そこでちょっと立ち止まって考えてみましょう。その抗生物質は何という病気(診断)に対して処方されたのでしょうか?
「かぜ」はウイルスという微生物によって引き起こされる病気です。抗生物質は細菌という微生物を殺すためのお薬で細菌よりもはるかに小さいウイルスには効果がありません。一方で「肺炎」や一部の「気管支炎」,「中耳炎」や「副鼻腔炎」といった細菌が引き起こす病気に対しては適切な抗生物質を選べば大変効果的です。そして,これらは「かぜ」がこじれて発症することが多いです。
ですから,抗生物質が処方されたときには医師に確認してみて欲しいのです。「この子,かぜが悪化してしまったのでしょうか。診断をおしえていただけませんか?」
抗生物質が必要な病名ではなかった場合,処方された抗生物質は効果があまりない薬剤であることが多く,有名な感染症の専門医により冗談交じりにDU(だいたいう●こになる)と命名されました(※1)。だいたいう●こになるだけなら無害ですが,下痢や薬疹などの副作用の危険性がありますし,安易に使い続けていると抗生剤が効かない細菌(耐性菌)がお子さんに病気を引き起こす可能性もあります。そんな理由から現在,厚生労働省や関連学会から安易な抗生物質の処方を控えるよう通達が出ているところです.
「かぜの治りが悪くて,病院で抗生物質をもらったら良くなった」という経験をお持ちのお子さんも多いと思います。もちろん上記の抗生物質が効果的な病気にこじれているのならば短期間でグンと良くなるでしょう。一方でそのような徴候のない場合はやはりウイルスによるかぜのことが多いです。かぜの症状が治るまでの期間は思ったより長く,就学前のお子さんで平均14日前後と言われています(※2)。風邪症状が長引き心配で受診したときには治りかけで意外に抗生剤は不要なのかもしれませんね。抗生剤の要否を一般のご家庭では見分けることは難しいかもしれません。ですから抗生剤が処方されたときにぜひ医師に確認して欲しいのです。「この子,かぜが悪化してしまったのでしょうか。診断をおしえていただけませんか?」
かぜの症状が長引くと不安な気持ちになることはとても良く理解できます。医師の私ですら息子がRSウイルスによる細気管支炎を起こしたときは心配で夜何度も起きて見守ったものです… 診療所では抗生物質が必要なときはその理由(病名)をご説明の上お出ししています.抗生剤は万能ではなく有害性も併せ持っているということをお知り頂き,賢く安全に大切なお子さんをご家庭と一緒に見守っていけたらと思っています。
※1 本当はお薬の名前までお伝えしたいところですが,公共の場で特定のお薬を名指しすることは控えておきます。乳幼児健診や予防接種,診療でお会いしたときに気軽にお聞き下さい。そっとお教えします。
※2 Duration of symptoms of respiratory tract
infections in children: systematic review.BMJ, 2013.
2019年9月
更別村診療所
山田康介